戦争社会学研究会の第9回研究大会は、東京大学で開催されました。今大会は個人報告も9名と過去最多で、質疑応答も白熱し、大変実りある大会となりました。
4/14(土)大会一日目
福間良明さんの司会で3名の個人報告が行われました。永冨真梨さんの報告では、モダンボーイの灰田勝彦の歌を対象に、総力戦体制とジェンダーの関連において重要な視座を与えてくれました。佐藤文香さんの報告では、男性自衛官を「他者」という視点から、男性自衛官が組織外の他者と組織内の他者と自己を差異化しながらアイデンティティを構築していることを明らかにしました。松田ヒロ子さんの報告では、自衛隊への入隊には旧軍や戦争経験が関連していたことを示しました。
野上元さんの司会で佐藤健二さんの特別講演が行われました。佐藤さんは戦争社会学の構想には、「定義」によって境界を決めてしまうのではなく、多様なアプローチを交流させることで、独立する複数の視点で立体的に対象を規定するような戦略がよいと提起されました。また、質疑応答では、佐藤さんの「総力戦」論や「総動員」論への批判的言及に対して、様々な意見が交わされ大変白熱した講演となりました。
4/15(日)大会二日目
一ノ瀬俊也さんの司会で2名の個人報告が行われました。堀川優奈さんの報告は、シベリア抑留者が『戦陣訓』と異なる捕虜観をどのように獲得したのかという視点から収容所での労働に目を向け、抑留者の抵抗のあり方について大変興味深い報告でした。宮部峻さんの報告は、第二次戦期における宗教と戦争協力の問題について真宗大谷派教団の教誨活動という実践を考察し、教誨活動は宗教的な目的からだけはなく当時の時代情勢との関わりでなされていたという視点を与えてくれています。
柳原伸洋さんの司会で2名の個人報告が行われました。那波泰輔さんの報告では、わだつみ会から「戦争体験の思想化」の議論がどう展開されたのかを考察しました。ヨアヒム・アルトさんの報告では、アニメにおける戦争の描かれ方に着目して、戦争アニメは本州を舞台にしたものが多いことを明らかにし、興味深い視点を提供してくれました。
浜井和史さんの司会で2名の個人報告が行われました。李争融さんの報告は、日本統治の台湾の皇民化政策を分析し、1930年代までに神社設置が進まなかった理由を「旧慣温存」の統治政策がとられてからであると明らかにしました。野入直美さんの報告は、沖縄県の金武町を対象にして、「基地の町」になりつつあった地域イメージに対して「移民発祥の地」の打ち出していったという視座を出してくれました。
西村明さんの司会でテーマセッション「宗教からみる戦争」が行われました。島薗進さんの報告では、戦争によって天皇への崇拝を扇動し、国家神道である天皇崇敬の宗教的な影響力を高める働きがあったと描きだしてくれました。永岡崇さんの報告では、梵鐘献納運動から総力戦における宗教経験を考察し、どのように「聖戦」が共同制作をされていったのかを明らかにしています。大澤広嗣さんの報告では仏教界の連合組織と戦争の関係を分析し、連合組織がいかにして全国の寺院を統制していったのかを提示してくれました。
以上の報告に対して、赤江達也さんと大谷栄一さんのコメント報告が行われました。赤江さんは戦時下の実践はすべて「戦争協力」とされるのかなどの提起をし、大谷さんは靖国神社や明治神宮の役割の差異などについての提起をしました。
それに対してフロアも交えた応答が行われました。有意義な議論が交わされ、30分余りの延長を経て閉会となりました。