第3回研究会・概要報告 「敗戦と宗教-戦後宗教史再考」

基盤研究B 課題番号:26284012
連合国のアジア戦後処理に関する宗教学的研究:海外アーカイヴ調査による再検討

日時:2015年3月16日(月)14時00分~17時40分
場所:創価大学中央教育棟10階 AW1002
出席者:中野、岡崎、平良、宮川、井上、白、李、陶金、林、小林、佐々木、伊藤(高)、星野、大黒、中野ゼミ学部生3名 (計16名)

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今回は『日本占領と宗教改革』の著者である東洋大学国際共生社会研究センター研究助手の岡崎匡史氏をお招きし、「敗戦と宗教-戦後宗教史再考」と題して1時間の報告をおこなっていただいた。

1.開会挨拶(中野毅:研究代表者、創価大学文学部教授)
『日本占領と宗教改革』は、占領研究において日本宗教制度の改革についての研究・論考が多くない中、学際的な視点から、また丹念な文献調査に依拠しつつこれまでの説に対し新たな解釈を提示しているという点で高く評価できる。

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2.出席者自己紹介

3.報告者紹介(平良直:八洲学園大学准教授)
岡崎氏について以下の略歴を紹介した:1982年、埼玉県生まれ。

2005年日本大学法学部卒業後、日本大学大学院総合科学研究科博士課程入学。在学中にサンディエゴ州立大学大学院政治学部留学、国際連合大学大学院、スタンフォード大学フーヴァー研究所で学ぶ。2010年、日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。北東アジア経済フォーラムYoung Leaders Program Fellow, 2007 & 2011、日本大学大学院総合科学研究科ポスト・ドクトラル・フェローを経て、現在、東洋大学国際共生社会研究センター研究助手。主要論文:”Chrysanthemum and Christianity: Education and Religion in Occupied Japan, 1945-1952,” Pacific Historical Review, Vol.79, No.3 (August 2010)

 

 

4.報告「敗戦と宗教-戦後宗教史再考」
(岡崎匡史:東洋大学国際共生社会研究センター研究助手)
岡崎氏はまず自身のキャリアについて自己紹介されたあと、本題にはいりアーカイヴ調査について言及し、ハワイ大学ハミルトン図書館、カリフォルニアにあるスタンフォード大学フーバー研究所、バージニア州フォークにあるマッカーサー記念図書館に所有されている、ロナルド・S・アンダーソン、ジョセフ・C・トレーナー、ドナルド・ニューゼントなどの資料を自身の研究関心との関連の中で紹介した。続いて自身の研究関心が「なぜ戦後日本にキリスト教がひろまらなかったのか」という点を明示した上で、これまでの先行研究を紹介した。そして自身の研究に大きな影響を与えた村上良重、島薗進、中野毅の業績を簡潔に紹介しつつ、「神道指令によって、キリスト教の布教が抑制された」という自身の研究仮説に言及すると同時に、公教育の分野に影響を及ぼせなかったことが日本におけるキリスト教の発展を大きく抑制したという論を自身の著作の内容とともに提示した。

 

5.質疑応答

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以上を踏まえて、参加者をまじえての質疑応答のセッションがひらかれた。
質問の内容は以下のとおりである。

井上氏「中野氏の研究に依拠したとの話がありましたが、どのような点に影響を受けたのでしょうか」

岡崎氏「特に神道指令がキリスト教の日本での発展に歯止めをかけたという論点に大きな啓発をうけた」

 

中野氏「昭和天皇を中心とした皇室のキリスト教へのスタンスはどのようなものであったのか」

岡崎氏「キリスト教への接近がみられるが、戦略的なものであった」

 

 

陶金氏「中国でのキリスト教の発展が限られたものとなっているのはなぜか」

岡崎氏「中国においては割合的には限られているが、今の増加率が続けば世界有数のキリスト教国となる」
白氏「韓国ではなぜキリスト教がひろがったのか」

岡崎「アメリカは韓国において信教の自由を保障すると言う日本での政策を前面に出す必要がなかったため、よりキリスト教の布教を推進できたのではないか」

中野氏「これについて様々調査がなされているが、さらに研究が必要ではないか」
伊藤氏「ニューディーラーたちがアメリカの日本における占領政策にどのような影響をもったのか、また彼らとマッカーサーとの関係はいかなるものであったのか」

岡崎氏「ニューディーラーたちの影響は占領初期のごく限られた期間に限定されていた」
井上氏「宗教学者の言説が戦後の宗教にどのような影響をあたえたのか」

岡崎氏「それほど影響はなかったのではないか」中野氏「これに関してはもう少し丁寧に調べる必要があるのではないか」
井上氏「岡崎先生の研究動機は」

岡崎氏「指導教官の影響のもと、まだおこなわれていない研究分野が占領分野における宗教事情であるという視点から、本研究に従事した」
平良氏「岡崎先生ご自身のポジショニングの問題をどう考えるか」

岡崎氏「あらゆる対象に対し平等に論を展開しようと意識した」

 

6.科研研究会打合せ

(1)井上大介氏より科研研究会全般について報告があり、中野氏を初め参加者で討議した。

・これまでの活動について、科研研究会打合せと科研研究会の経緯を説明した。事務局を設置した創価大学において、日本宗教学会第74回学術大会が2015年9月に開催されることとなった。主催校としての事務局も本科研研究会と同じく中野研究室に設置された。そのため、科研研究会の打合せと学術大会の打合せを同時進行で行うことになっている。

(2)小林和夫氏より「インドネシア日本占領期資料のアーカイブ所蔵状況について」と題し報告があり、若干の質疑応答がなされた。小林氏はインドネシア日本占領期研究に取り組み、ここ4年間インドネシア、オランダにおいて調査をしてきている。

報告ではまず日本占領期研究の限界が明らかにされ、次いで日本、インドネシア、アメリカ、オランダにおけるアーカイブ状況が紹介された。特に、オランダの1800年代以降の雑誌・新聞・書籍の全文オンライン検索が可能な「Delpher」というウェブサイトが有益である。これはオランダが国を挙げて作成しており、ここ2~3年で完成した。日本の研究者はまだ誰もこのサイトを使っていないようである。最後に、音声・映像資料の可能性について言及された。「オランダ国立映像音声研究所」等のアーカイブを用いて、蘭領東印度政府および日本軍政当局の占領統治にみる統治国の視線を浮き彫りにするという研究計画が紹介された。

中野氏からは、本人の問題意識を大切にしながら、科研研究会の枠組みに合わせていくことが課題になるとの指摘があった。

(3)中野毅氏より論文の抜き刷りが参加者に配付され、「沖縄返還に伴う宗教団体の法的地位の変遷と宗務行政」について紹介があり、若干の質疑応答がなされた。これは2013年に開催された宗教法学会秋季シンポジウムでの報告、その下地としての、中野毅「沖縄占領と宗教法人―宗教団体法は生きていた」(『ソシオロジカ』第37巻第1・2号合併号、創価大学社会学会、2013年3月)をもとに、加筆訂正したものである。中野氏は2012年3月に沖縄県公文書館の資料調査において、在沖縄宗教団体の法人設立関連の文書を閲覧していた際、宗教団体法が存続していることに気付いた。沖縄のことはあまり知られていないし、日本のアーカイブ調査を通し、知らないことはまだまだあるとの心情が語られた。

(4)宮川真一氏より、日本宗教学会第74回学術大会の会計について報告があった。この日、日本宗教学会第74回学術大会実行委員会として八王子駅前郵便局のゆうちょ銀行で総合口座を開設し、振替口座開設の予約がなされた。一週間後に振込口座開設のお知らせが届き次第、振込取扱票(振込用紙)の印字サービスを請求する予定である。

 

以上