戦争社会学研究会の設立の呼びかけ

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 アジア・太平洋戦争(こう呼ばせていただきます)が終わって64年、戦争体験の風化が言われながら、他方でそれが記憶の中で甦り、継承され、また新たに構築されています。戦争に対してどのような態度をとるかは、日本国民のホットなトピックであるだけではなく、日本社会学においても、すでに少なからぬ方々が、戦争体験(戦争に関わる人間的事象)について、研究を蓄積されています。戦争体験は、事実(事実とは何かを含めて)に関わる諸問題を提起しているのみならず、「歴史・社会・人間」の研究に重くかつ深い諸問題を提起し、社会学を学ぶ者にそれらへの応答を迫っています。社会学徒は、戦争に対する責任に、歴史的理性と学術的研究をもってどのように応答すればいいのか。戦争と人間を研究する先輩たちの胸には、このような想いが去来したのではないでしょうか。 
 このような認識にたって、私たちはここに、戦争と人間の社会学的研究に関心を寄せる方々に戦争社会学研究会の設立を呼びかけたいと思います。私たちは、戦争と人間の社会学的研究に携わる全国の方々が一堂に会して議論を闘わせ、交流する場がないことを残念に思っています。そのような場(学会さえ)はどうしても必要だと思っています。しかも、私たちが研究会の設立を呼びかける理由は、それだけではありません。

 まず戦争は、社会学にとって、人間性の解明のために、想像力の問題としても、理論と方法の問題としても、避けることのできない研究課題であります。また兵士として、「銃後」の国民として、原爆や沖縄戦の犠牲者として、さらに侵略されたアジアの民衆として、アジア・太平洋戦争を直接に体験された方々が高齢になった現在、戦争の生き証人から体験を聞くことのできる機会が残り少なくなっています。さらに、戦没された方々の遺書・手記・日記・手紙など、膨大な「涙と血の文書」が全国の平和記念館などに収集され、文献や報告書に収録されているものの、それらの社会学的分析はほとんど手つかずの状態にあります(データベース化さえあまりされていません)。これらの方々の体験を聞き、また文書や文献を読んで戦争と人間の事実を明かし、その意味を分析することは、戦争と人間の社会学的研究にとって必須の課題であります。研究会は、戦争と人間の事実に即して戦争の意味を社会学的に解明する、換言すれば、自分の考えにとって都合の悪い(と思える)事実をも含めて、戦争の意味を解明しようとするものであります。
 このような研究姿勢のもと、研究会の輪郭について、次のように考えています。第一に、(さしあたり)研究と議論の対象をアジア・太平洋戦争に関わる戦争と人間に絞ってはどうかと思います。理由は3つあります。一つ、アジア・太平洋戦争は、日本近現代の戦争の総帰結(戦後の戦争体験を含めて)であり、戦争と人間の研究にもっとも多様な問題を投げかけているからであります。二つ、アジア・太平洋戦争は、韓国・朝鮮や中国をはじめ多くのアジアの人びと、また沖縄の人びとを巻き込み、苦難と犠牲を強いた戦争であったという意味でも、日本近現代の戦争の総帰結だからであります。三つ、残されたわずかな機会において、アジア・太平洋戦争の生き証人の体験を聞いて記録することは、社会学がなすべき焦眉の課題だからであります。
 ただし、さしあたりアジア・太平洋戦争に対象を絞るといっても、研究は、日本近現代の戦争と人間の全般に関わる問題群と不可分の関係にあります。したがって、研究の射程は、当然、それらを包摂せざるをえません。
 第二に、戦争体験の研究といっても、中身は多様なテーマから構成されます。戦前の戦争体験、軍隊・戦闘体験、「銃後」の体験、被爆体験、沖縄戦体験、アジア民衆の体験、戦後の戦争体験(抑留、引揚げ、遺族など)、戦争体験の継承や再構築などなど。研究会においては、テーマを限定することなく、会員が各自の関心をもとに研究を進め、議論し、その中から戦争社会学の形成に繋がる発見(実証と理論)を蓄積していくことになるのだと思います。
 第三に、戦争社会学研究会の会員は全国から参加されます。また、特別のファンドがあるわけでもありません。それで、研究会の開催は、年に1度、毎年場所を変えて、1泊2日の研究大会を開催する(学会方式)という方法が精一杯なのではないかと思います(会員同士の交流は、どんどんあってほしいものですが)。研究会の形態や事務などの具体的な事柄については、ご賛同いただいた方々に、あらためて提案させていただきたいと思います。
 戦争とはなにか。戦争体験とはなにか。戦争社会学とはなにか。こうした問いの答えも明確に定まらないまま、ここに、研究会の設立を呼びかけています。既述の趣旨において、まずは「戦争社会学」研究会の設立を呼びかけたい。これであります。
 ということで、幸いにして趣旨にご賛同いただけますならば、ぜひとも研究会に加わっていただき、いっしょに議論を闘わせ、学び、(日本の、また世界に発信する)戦争社会学に関わる社会学的知を蓄積していくことができればと思います。

2009年4月 
青木秀男
Institute on Social Theory and Dynamics

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