第8回大会印象記

戦争社会学研究会の第8回研究大会は、琉球大学で開催されました。沖縄での開催は、研究会にとっても大きな挑戦でしたが、二日間を通して計40名近くの方が参加する盛会となりました。会場では、『戦争社会学研究』創刊号の見本の披露もなされ、印象深い大会となりました。

◎4/22(土)大会一日目
西村明さんの司会で3名の個人報告が行われました。アウケマ・ジャスティンさんの報告は、戦跡としての大学という視点から、大学の理念やそのイメージの利用という「戦争の記憶」研究においても興味深い視点を提起されました。また、中山郁さんの報告では、遺族・地域社会を巻き込みながら、戦友会がまさに「第18軍」的規模で遺骨収集を実現させてゆく昭和40年代の動きを明確にしてくれました。さらに渡邊勉さんの報告では、SSM調査の1906-25年生コーホートの職歴データを使うという方法によって、兵役経験と復員後の職業選択の関連・影響を計量的に示してくれました。
また、柳原伸洋さんの司会で、南風原文化センターの平良次子さんから、大会三日目のエクスカーションの事前情報提供を行ってくれました。時代・世代を越えて記憶を継承してゆこうとする文化センターの様々な試みについて紹介をしてくれました。

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◎4/23(日)大会二日目
体調不良で来沖できなかった一ノ瀬俊也さんに代わり、石原俊さんの司会で個人報告が行われました。塚原真梨佳さんの報告は、メディア・イベント化される慰霊行事中継番組を丁寧に調べたものでしたが、「今後の展望」として示された、ポスト・テレヴィジョンにおける慰霊行事についても興味深いものでした。
その後の「『野火』の戦争社会学」シンポジウムでは、司会をされた山本昭宏さんの主旨説明のあと、まず福間良明さんが主に市川崑映画版を題材に、市川版を取り巻いていた戦争映画の「広がり」や1980年代以降の「まじめ化」による「幅の狭まり」を指摘してくれました。次に野上元は、主に塚本晋也映画版を題材に、「戦場と視線」という問題や、身体の「モノ」化を描くスプラッタ映画の技術と戦争(反戦)映画の結合を指摘しました。さらに成田龍一さんの報告は、大岡昇平の原作を題材に、大岡を正典化し私たちの「読み」を規定している「戦後」という歴史性を、大岡の改稿過程をたどるなかで描き出してくれました。
三人の報告に対し、青木深さんは「生きられた地理」という視点から、『野火』の舞台となった「武蔵野」と「フィリピン」に結びつけることで議論の幅を広げてくれ、松下優一さんは、三つの作品の相違のひとつの鍵といえるキリスト教のシンボルに注目することで議論の深度を掘り下げてくれました。会場からの質問や意見も交えて議論は大いに盛り上がり、「『野火』の戦争社会学」という問題提起の可能性を確認するところとなりました。
個人報告でもシンポジウムでも、初日・二日目の諸報告で印象的であったのは、様々なテーマがあり得ることもさることながら、「方法」の多様性も意識され始めたのではないかということでした。特に渡邊さん・塚原さんの試みには、非常に可能性を感じました。そうしたアイディアを持ち寄って交換する研究大会の意義を改めて思った次第です。

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◎4/24(月)大会三日目
大会三日目となる24日は、本研究会初めての試みであるエクスカーションを行いました。午前中に訪れた南風原文化センターでは、ヘルメットをかぶって懐中電灯を抱え、真っ暗な陸軍病院壕跡に入りました。壕内のにおいを再現した試みも印象的でした。「ふみや」での昼食後をはさんで、午後は「不屈館」を訪問、瀬長館長や山城博治さんのお話を伺うことができました。参加者は15名でした。前二日間の大会での内容と様々なかたちで結びつき、沖縄という場所と戦争・軍事の関わりの過去と現在の状況を学ぶ、印象深いエクスカーションとなりました。
この場をお借りして、大会の開催に当たって尽力下さった各位、南風原文化センターの平良様、参加者の皆様に深く御礼申し上げます。
(野上元)

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