1998年11月28日の夢

11月 28, 1998 under 夢日記

 

 

 

 

錆びの浮いている赤茶けた鉄の扉をあけると、そこは甲板だった。

 

 

船に乗っている。

船といっても戦艦である。

そして戦艦といっても大航海時代に出てくるような巨大な帆船だ。

 

 

 

  身 

   体に

           風を

                          受ける。

 

 

甲板

   には

       細長い板が

                      隙間なく敷き詰められている。

 

               幾筋もの直線が、

   その消失点である舳先へ向かって

                         伸びている。

                                  長い廊下のようだ。

                        長い     

       長い。

   何10メートルもありそうだ。

      途中には巨大な主砲がある。

 

 

 

 

 

舳先の彼方には空が見える。

 

白い雲が浮かぶ真っ青な空が見える。

 

 

 

 

碧空。

白い雲が美しい。

 雲が次々と後ろへ向かって流れてゆくから、

                自分が進行方向に向かっているのが分かる。

          風がある。

       かなりのスピードである。

しかし船は揺れない。

なぜならこの艦(ふね)は空を飛んでいるからだ。

 

 

 

海上を飛んでいる。

陸地は見えない。

海面すれすれを、堂々と、そして音もなく滑空していく感じだ。

これが宇宙船であることに気がつく。

そしてあくまでも帆船タイプの戦艦である。

そうか、

なんだ。

これはアルカディア号だっ。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

しかし別に不思議ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリジリとした焦燥感がある。

 

 

 

 

 

俺はある任務のためにここにいた。その任務の厄介さが俺に焦燥感を与えている。

俺は伍長クラスの乗組員であるらしい。

甲板で作業をする他の乗組員たちを整列させる。

 

 

 

 

 

集まってきた。

 

 

 

 

 

5、6人いる彼らはみな老人だった。

 

  赤銅色に日焼けした地肌。長い年月が顔に刻まれている。

  歯が欠けている者もいれば、入れ歯の者もいる。とてもふぞ

  ろいだ。海の男たちというよりは、ご長寿早押しクイズの面々

  のようだ。しかも老婆もまじっている。彼女は白い割烹着に

  白い頭巾をしている。服装はこの上もなくまちまちで、漁師た

  ちの年末大掃除

 

                         ……という感じだ。

 

  ……この人たちには散々手を焼かされてきたのだ。どうせ何を言っても、孫ほどの年齢の若造である俺の言うことなど、ちっともまともに聞いちゃあくれないのだ。誰もが嫌がる仕事を俺はこれからしなければならないのだ。彼らは雑役のための要員で、正規の戦闘員ではないのだ。彼らの表面的には真面目腐った顔つき。しかしその目はちっとも俺など尊敬してはいない。

やれやれ…

と俺は心の中でひそかにため息をつく。

 

 

彼らは、特に反抗的であるわけではない。危険思想の持ち主でもなく、この船をどうこうしようという野心やたくらみがあるというわけでもない。どちらかといえば、むしろ従順な方であろう。きわめて庶民的であり、長屋的である。あるいは、小さな漁村の住民たちのようである。素朴であり、それゆえ扱いにくいのだ。なぜなら彼らには彼らの常識があり、一般的なものとはどこかちがうからだ。そして誰もが、各々、一人ひとつの技術を持っている。しかもそれは理論化することのできない、一種の伝統的な知識だ。彼らは理論や原理とは関係なく、目分量や勘にたよって何でもやってしまうのである。図面などまったく見ない。機械工学の知識など何にもなく、エンジンの分解組み立てやオーバー・ホールをやってしまい、しかもそれができてしまうのだ。

     目の前にいるこの老婆は甲板でキュウリやナスを漬けてしまう。甲板で漬物を漬けるのは規則違反だが、その漬物は美味く、俺たちはそれなくしては生きられないほどになっていた。塩水で漬けるのがコツなのだ。その漬物をうまくつけられるのはその老婆だけであり、だから誰も彼女を下船させることはできないのだった。そのことを彼女も知っていた。

しかし、俺には任務があった。

 

甲板に高性能の爆薬が仕掛けられているらしい。

        それを確かめ、爆薬を発見し、除去することが俺に課せられた任務なのだ。

 

                   そしてさらに、犯人を捕まえること……。

 

 

 

 

コノナカニ

ハンニンガ

イルノダ。

          

  

 

 

金属探知機のようなものをセットさせる。

空港にあるゲートのようだ。

もしも爆薬を身につけていたら、このゲートをくぐったときにランプが光り、音がする。

 

俺は彼らの説得に成功したらしい。

老人たちは渋々ながら、順番にゲートをくぐってゆく。

 

 

    その老人は蛍光色の、明るい黄緑色の服を着ていた。それはスタッフ・ジャンパーだった。

 

 

狡猾そうな表情。

 

                                               オカシイゾ

 

その老人がゲートをくぐる。

反応はない。

 

 

目は靄がかかったように潤んでいる。

嘘をついている目だ。                                  コイツ

ばれていることが分かっていながらとぼけている。                    ウソヲ

若造だと思って馬鹿にしているのだ。                            ツイテ

ロッカーだっ!                                         イル。

この男の荷物を調べるのだ!

 

 

  ロッカーはまるで昔の学校にあった下駄箱のようだった。

木製である。

カギがかかっている。

 

何故か日本の警官の服を着た係員たちが

扉をこじ開ける。

 

内には、

古ぼけたブリキのバケツがあった。

その中に、なにやら白い粉が入っていた。

 

 

 

人差し指で触ってみる。

石灰だった。

それはグランドに線を引くときに使う石灰の粉だった。

 

 

 

 

石灰はニトログリセリンと混ぜると威力が増すらしい。理屈はわからない。

しかし、これだけでは、大騒ぎすることではない。

 

アレさえ混ぜなければな……。

 

そう思った瞬間、老人の目が動揺したように泳いだ。

スタッフ・ジャンパーの裾の辺りにに小さなしみがついていた。油のようだ。

カメラがフォーカスするように、夢の中でその部分がアップになる。

 

――しゅぴんっっ!――

と、何かがひらめくときの効果音。

 

 

   まさかっ?!

 

 俺は、老人の、その妙に明るいスタッフ・ジャンパーの胸倉を掴んだ。思わず力が入る。その勢いで、彼の懐から何かが落ち、俺たちの足元にころがった。

 

 

それは、ほとんど空になったマヨネーズのチューブだった。

 

 

ああっ!

――衝撃――

 

なんてことだっ!

 

俺は驚愕していた。

もしも先ほどの物質にマヨネーズを混ぜるとその意味はまったく変わってしまう。

                                                 カシャ。

――恐怖――

                 カシャ。

 

         カシャ。                          カシャ。

      カシャ。              カシャ。

カシャ。          カシャ。                      カシャ。

カシャ。      カシャ。       カシャ。

 

      俺の頭の中ではすばやく化学反応式が計算されている。訳のわからない記号が、四方八方から飛んできて、頭の中の空間を跳ね回る。一瞬にしてその解がはじき出された。

 

 

                                                                              まさか。

 

――戦慄――

その化学式は驚異的なエネルギーを指し示している。

         まさか。

まさか。                   まさか。         まさか。

        まさか。     まさか。     まさか。                    まさか。

                                    まさか。

 

      まさか。

 

                                  俺は周りを見渡した。

 

仕掛けたのか? 一体どこにっ!?

 

                     俺の目に主砲が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

主砲?!

 

 

 

         ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

ここだ!

うってつけの場所があったではないか。ここだ。ここに仕掛けたのだ。

 

 

          ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

 

確信があった。

 

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

 

もっとも効果的な場所だ。

 

      ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

 

主砲のエネルギーと融合して、ものすごい爆発になる。 

 

         ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。ここだ。

 

 

地球が。

 

        ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

        ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

地球が崩壊する……。

 

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

       ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

 

なんとか取り外さなくてはっ!地球が。

 

      ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

 

 

      ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

 

                                                    ウ

        ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。ちきゅうが。

                                                     ィ

          

          その時、            イ

           誰が操作したのか、うなるような機械音がして主砲が静かに動き出した。          ィ

                                                                                イ

                                                       ィ

 

あっ!  

               ィ

ゆっくりと仰角を上げ始める。

 

                          ン。

ああああああっ!

 

 

 

 

 

主砲発射準備だ。

 

 

 

俺は老人へ振り返り、大声で言った。

「一体なんでこんなことをっ!」

我ながらすごい剣幕だった。

 

はっきりとした、そして断固とした口調で老人は叫び返す。

「これぐらいやらにゃあヨ、悟空を呼ぶことはできにゃあ、のじゃきニィよ!」

 どこの方言だかまったく分からない言葉で、よく分からない理由が述べられた。しかし何故か説得力があり、すべてがすっかり解き明かされたような気がした。おそるべし。老人。

 老人は、満面の笑みを浮かべている。叫んで心拍数が上がったためか、その頬は紅潮している。

俺は絶句し、立ち尽くしている。

 

 

 

高度が上がったのか、

いつしか風はごうごうと

吹きすさび、雲も出ていた。

 

夕闇が迫っている。

船の上はすでに肌寒い。

俺は甲板の上に立ち尽くしている。

 

 

その全景を上空からのパン・ショットで捉えている。

    空を飛ぶ帆船。

        甲板に立つ俺。老人たち。風。

                       発射されつつある主砲。地球の終わり。悟空……。

 

 

 

ああ。

そして、

 

 

 

 

空の色は、とても不気味な紫色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解説】

 

ものすごく焦っている夢だった。

 こうした文字による表現で、あの焦燥感をどこまで伝えることができたのか心もとないものがある。それぐらい焦っていた。そして訳はちっとも分からない。なにしろことは地球の崩壊である。一体、どうしてこんな夢を見たのだろうか。

 

 この日、八王子の野猿街道沿いにある財団法人大学連合ゼミナー・ハウスというところで合同ゼミナール合宿なるものがあった。一泊二日である。うちの大学の社会学科が毎年行っているイベントだ。『現代社会の人権を考える』というのが今回のテーマであった。留学があったので参加は二年ぶりである。ともかく、このイベントに参加した夜にみた夢がこれである。人権とはあまり関係のない夢であることから、いかに私が乗り気でなかったのかを如実に示している(笑)。そもそも宿泊の予約すら入れていなかった。どうするつもりだったのかというと、車で行ったので、夜は帰っちゃうつもりだったのである(笑)。

 

 しかし(というか案の定)、夜は学生と、若手の先生のお部屋で朝方まで酒を飲んでしまい、結局ツインだった先生の部屋のあまっていたベッドで寝ちゃったのである。ずうずうしいことこの上ない。

 

 開会が夕方からであったので、車で西へ向かって運転していった。恐らく、フロント・ガラスから見たその光景(だんだん夕闇となってゆく)が、船の舳先に広がっている空であると思われる。しかし、それ以外はまったく何の夢であるのか分からない。

 

 ただ、焦っているのは本当だろう。それは現在自分の置かれている状況からも分かる。本当は夢日記などを書いている場合ではないのである。

 

  ……ううむ(微苦笑)。

 

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