1998年6月26日の夢

6月 26, 1998 under 夢日記

夢日記 【第三回】
ダウン・バイ・ロー
Down by Law

 

 

 

……水の底にいた。

 世界はエメラルドの光に満たされている。       深い深い湖の底にいるようだ。     周りには膨大な水の圧倒的な存在感。

                  ……ここはどこだろう?

そう思った瞬間、ここがどこだか思い当たる。

ここはダムによってできた人造湖。山合いの谷間にある。

もう半世紀以上も昔にできた湖だ。

秋には深い緑の湖面に紅葉が映えて美しい。

その景色を遥か上空から、鳥瞰図として眺めている。

それが記憶なのか推理にもとづく想像なのかは定かではない。

 

俺がいる辺りはもう水深20mほどなのだろ う。しかしまだまだ底は深

そうで、下方は暗緑色の闇の中に消えている。湖の中ほどに俺は漂っている。

                             比重の関係で、この辺り                                が俺の質量とちょうど釣り                                    合っている深度なの                                        だろう。 

重力もなく。宇宙空間のようだ。何も音は聞こえない。水圧も特に感じない。

ただ、ここはまったく別の世界であることだけを感じている。 

      そして俺の足下の方、さらに深いところから、巨大な魚がゆっくりと

ゆっくりと現れる。 ゆっとりと、しかし巨大な質量をともなって。 巨大なウロコの模様が流れるように次々と視界に入ってくる。

                            ウロコ模様が動いてゆく、                 動いてゆく。 俺は息を呑む想いでその光景を見つめている。 

恐怖はな い。それは弧の部分が2メーターはあるような巨大な扇形のウロコ。

現れつつあるその魚の体長は30メータはあるだろう。

            すると、これはこの湖のヌシだろう。 俺は巨大な魚にまとわりつく小魚の群れのようなものだ。
ゆっくりと、しかしなめらかな動きで、次第にヌシが顔をあらわす。

それは巨大な鯉だった。3メートルはあろうかという口髭。

魚類の特徴である縦長の扁平な顔。まばたくことのない巨大な眼。

すべてを凝視する無表情な眼。巨大な真円の瞳は何故か理知的だ。

                  深い知性を感じさせる。

 

俺は悩んでいた。

するとヌシはやさしく語り掛けてきた。

老賢者。

500年生きてきた。その500年の人生(魚生か?)。来し方を語ってくれた。
人語を解するのだ。
最初は体長1メートルぐらいだったという。その頃から、彼の歴史、あるいは意識は始まった。

 

徐々に大きくなり、徐々に賢くなっていったのだった。

地上では、戦乱の世があり、繁栄と衰退の歴史が繰り広げられて来た。

文明。時にわずかばかりの平安な時代もあった。それとは別の誰も知らないこの湖の底で。まったく別のドラマが、成長が、生命の戦いがあったのだ。彼はゆっくりとゆっくりと成長していった。いろいろな経験をし、

死にそうな目にあったり、飢えたり、恋をしたり。

迷いもあったし、恐れも、惑いもあった。

彼は少しずつ少しずつ成長していった。その500年にも及ぶ物語を、魚は語ってくれたのだった。

 

何も焦る必要はない。ただ地道に前へ進めばいいのだ。あきらめずに出来ることをやればいいし、そうする以外にないのだ。

 

大魚はそのことを俺に教えるために現れたのだった。

 

そして俺は覚醒した。胸の中は満たされた想いで一杯だった。 確かな安心感。地に

足がついた感覚。

俺はあの魚に感謝した。 

【解説】 

 この夢をみた時は窮地に立っていた。 ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジにおいて行われたPacific Asia Cultural Studies Forumなる一種の国際会議での報告を控えていたからだ。朝になれば、滞在していたエセックス大学のあるコルチェスターという町から、予約しておいたロンドン大のアコモデーション(寮)へ行かねばならない。しかし、自分の報告原稿がまだできていないのだ。日本語で書いてあった報告原稿を翻訳しようとしたのが、そもそもの間違いであった。ううむ。日本語と英語との違いがこうもあるとは・・・。結局、まったく新たに英語で書き下ろさなくてはどうにもならないことに気がついたのは一昨日のことであった。いまさら論題をかえるわけにもいかない。

 やばい。物理的に時間が足りない。ネイティヴに一度読んでもらって間違った表現を直したり、漢文体の明治期の行政文書を翻訳しなくてはならない。しかも資料であるからそれらしく訳さなくてはならない。日本からは、先輩であり友人でもある平良氏(筑波大大学院)に添付ファイルで送ってもらった忠魂碑の写真も印刷しなくてはならない。資料に気をとられてばかりもいられない。本文、本文がぁ・・・。英語、思い浮かばねえよお。もう半泣き状態である。テニスばっかりやっていた日々を恨んだが、いまさらどうしようもない(笑)。午前一時。前日も半ば徹夜だったのだ。もう限界だ。キャパ超えてる!

  寝よう。

 そう思った。頭がこんなパニクった状態じゃあどうしようもない。休息。カーム・ダウンが必要だ。ポケット・ボトルのスコッチをあおり、倒れるようにベッドに入った。一応二時間後に目覚ましをかけておく。目覚し、止めちゃったらどうしよう。ええいっ。もうっ、もうどうでもいいや。その時はその時だっ。

 

 ……と、こんな状態の時にみたのが上記の夢である。起きた時には非常に冷静で、気力体力ともに充実していた。天啓というか洞察を得たかのようだった。目覚ましも必要なく。一時間ほどで目覚めた。

 ベッドから起き出した俺は、焦らず、しかしひとつひとつ確実に課題をこなし、朝には原稿が出来上がっていた。奇跡のようだった。着替えて会場に向かった。

 

 後に友人にこの夢の話をしたところ、「うーん。なんか日本昔ばなしみたいだね」と、いわれた(笑)。

 

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