拳銃刑事とは何か?

6月 18, 2005 under 何か

※筆者注 この文章は1998年頃に書かれたものの再録です。

先日、乱歩の『悪魔の紋章』を読んだ。

初めて『孤島の鬼』や『蜘蛛男』を読んだ時のような衝撃はなかったが、昭和初期エログロナンセンスのひとつの成果である。時局に配慮してか、ところどころ描写を押さえてしまっているところがあり、残念ではある。しかし、これは読者が想像力で補うべきなのであろう。この作品、舞台化は無理としても、映像化したら面白いのではないか、などということを読了後、タバコを吸いながら考えていた。
乱歩作品はいろいろな版元から出ているが、今回は春陽堂から出ている「江戸川乱歩文庫」を購入した。理由はふたつある。
第一に、カバー・イラストが気に入ったからである。どんな人かは知らないが、多賀新という人の画である。これがなかなかエロティックかつ幻想的、図像的でいい。
第二に、解説がない、ことである。文庫本には解説はつきものであるが、ここでネタバラシがあったり、本文中の描写や台詞を引用してしまったりしているのがあり、そういうものを読んでしまうと内容への関心が褪せ、興味をそがれるてしまうことがままある。その点、乱歩という一種の古典の、しかも乱歩文庫と銘打っておきながら、解説がまったくないというのは、何か壮快な感じさえしたのである。
さて、ここまでが、実は前置きである。この文章は乱歩とはまったく関係がない。


誰でも、文庫本の巻末に既刊目録が載っているのをみたことがあるだろう。その出版社が発行している他の作品と作者名が数ページにわたり、三段組ぐらいに列挙されているところである。この欄は、宣伝でもあるのだろうが、実は結構便利である。何故なら、その出版社がどのような傾向の作品を主に扱っているのかを知る目安ともなるからである。春陽堂の出版物を買ったのは初めてであったので、この既刊目録の欄を眺めていた。そこに、以下の書名をみつけた。

拳銃刑事三四郎

……。

拳銃刑事……。刑事は「デカ」と読むのだろうか。作者は城戸礼とある。不勉強ながらこの作者の作品は一冊も読んでいない。ちなみに「礼」は変換しなかったが旧字体である。しかし、それにしてもすごいタイトルである。「拳銃」と「刑事」という、ほとんど同語反復といってもいいようなあまりにも相互に関連が深すぎるふたつの単語を、あえてタイトルに結びつけている。例えば「包丁板前」とか「グローブ野球選手」というのに近い。ものすごく違和感のあるタイトルである。これは一体どういうことであろう。多分、そうまでして拳銃を表に出すなら、きっと主人公は拳銃の名手であるのに違いない。いや、まてよ。刑事といっても、所轄署の刑事は常に拳銃を携帯しているわけではない。だとすれば、そうした所轄の方針ひいては日本の官僚制に対して毅然として反旗を振り上げる一匹狼のアウトロー刑事が登場するハード・ボイルド活劇小説なのだろうか。
しかし、そうなると分からないのは、その後に続く「三四郎」である。
三四郎……。なんというさわやかな響きを持った名前だろう。三四郎は健全な若者の名前である。その名前からして、正義感の強い、大志を抱いた青年が上京してくるところから話が始まりそうである。昔のスポ根ドラマや学園物のイメージである。そして、アウトローやハード・ボイルドというイメージからは、なんとかけ離れた名前だろうか……。そう、おそらくこれは青春刑事物というようなジャンルの作品なのではないだろうか。
一体、どんな作品なのであろう。ここまでかみ合わないタイトルは滅多にみられるものではない。まだ読んでもいないこの作品に私は興味をひかれ、タイトルに衝撃を受けた。
そして、この作品、なんとシリーズものらしい。第二作のタイトルは次のようなものだ。

殴り込み刑事三四郎

……。
どうしたのだろう。殴り込みとはおだやかではない。何があったのだ、三四郎?三四郎は不良になってしまったのだろうか。 それともやはりもともとアウトロー刑事だったのだろうか。ああ。……思わずまだ読んでもいない三四郎のために私は心を痛めた。
そして三作目四作目と、タイトルは続く。

抜き射ち刑事三四郎
ぶっ飛ばし刑事三四郎

三四郎はグレて不良刑事になってしまったか、あるいはもともとアウトロー刑事だったのだ。そうにちがいない。そして、そのことを裏付けるかのように、続編のタイトルは続いてゆく。

突撃マイト刑事三四郎
熱血スーパー刑事三四郎
不敵バイオレンス刑事三四郎
必殺ダーティー刑事三四郎

もう間違いはない。今度は冒頭に惹句までついている。三四郎は街中でダイナマイトをぶっぱなしたりするめちゃくちゃな刑事なのだ。どのくらいめちゃくちゃかというと、それはスーパーでありバイオレンスであり、ダーティーな刑事なのだ。そして、最初に推理したようにアウトロー刑事であることは続く作品のタイトルが証明していた。

大暴れアウトロー刑事三四郎
猛撃はみ出し刑事三四郎

やっぱり三四郎はさわやかなのは名前ばかりであった。アウトローではみ出した刑事なのである。それが大暴れしたり猛撃したりするのである。そして彼の傍若無人さはますます激しくなるらしい。続くタイトルがそれを明かしている。

爆発メガトン刑事三四郎
鉄拳エキサイト刑事三四郎

実は突撃マイト刑事の時から心配していたのであるが、どうも三四郎はダイナマイトなどの爆発物を使用する性癖があるらしい。危険な性癖であり、法で取り締まるべきなのである。ところが彼は「アウトロー」であるため、どうやらそれもできないらしい。そして彼はメガトン級に爆発してしまう。メガトン(megaton)といえばTNT火薬の百万トンに相当する恐るべき爆発である。ついに彼は核兵器にまで手を出したらしい。そして、エキサイトしたところで、どうやらこのシリーズは第一期が終了したらしい。三四郎はどうなったのかっ!?死んでしまったのだろうかっ?警視庁も防衛庁もどんなにか安心したことであろう。それにしても一体何人の犠牲者がでたことか……。

しかし三四郎は死んではいなかったっ!それは次のタイトルが物語っている。

激闘パワフル刑事

そう。この作品で三四郎はパワフルによみがえった。いや、まだ読んでいないので「と思われる」のだ。それにしても第二期の幕開けにふさわしいなんというパワフルなタイトルであろうか。もう、タイトルに三四郎の文字すらない。読んでないので、別シリーズかもしれないが、そんなに危険な刑事が日本に何人もいるハズがない。「あぶない刑事」の比ではないのだ。作品はまるで生き返ったかのように次々と書きつがれている。

暴走ファイティング刑事
壮絶ワイルド刑事
闘魂マグナム刑事
血戦マイティ刑事
強襲ストロング刑事

あたかもボクサーやプロレスラーのリングネームを見ているかのようだ。彼の活躍はなおも続く。

弾丸クラッシャー刑事
激烈ジャガー刑事
大反撃ショットガン刑事
出撃バズーカ刑事
撃滅コマンド刑事

……もう日本は戦場である。

危機一髪特命刑事
殺人特命刑事

彼は実は特命刑事だったらしい。しかしその割には行動が目立ちすぎるのではないだろうか。しかし、任務はまっとうしたようだ。

壊滅パーフェクト刑事

……実はこの巻で彼の戦いは終わってしまったのではないだろうか?それもパーフェクトに。
長かった、あまりにも長かった死闘の果て、三四郎がみたものはなんだったのか。そこにはただ、虚無感と虚脱感のみがあったのではないだろうか。彼は持てる力のすべてを出しつくし、「あしたのジョー」のように真っ白な灰になってしまったのではないだろうか。
いやっ。そんなことはない。三四郎のエネルギーやバイタリティーはこんなものではない。彼は戦うっ。この世に悪がある限りっ。それはやはり、タイトルが証明しているのだ。この目録上のシリーズ最終巻は次のようなタイトルである。

ガッツ武装刑事

……ううむ。このシリーズ、いつかは一冊読んでみたいものである。

【追記】

 なんと、さらに衝撃の事実が発覚した。

 この城戸礼という作者に注目していたサイトがあったのだ。そして「三四郎」シリーズには刑事になる以前の作品群があったというのだっ。

~ジャジャジャーン。ジャジャジャ。ジャジャジャーン(UFO特番風に)~

 刑事になった三四郎はどちらかといえば「新」三四郎シリーズにあたり、刑事になるまでの三四郎には長い長い物語があったのだ。そして記念すべき第一作のタイトルは以下のものであるという。

 かけだし三四郎

 ……。

 す、すごい。私はこれをみて約5秒ほど茫然自失の状態に陥ってしまった。しかし衝撃のタイトルはこれだけではないのだ。まだ序の口といったところである。

 注目のこのサイト、以下にリンクをはっておく。皆さんもご自分の目でお確かめになるといいだろう。

日本文學發掘シリーズ その1

 ※2002年8月現在リンク切れを確認しました。しかし閲覧は、インターネットライブラリープロジェクトWAYBACK MACHINEによって可能です。
直リンクはこちらです。

 ここには城戸礼著作リストもある。サイト作者からのメールによれば、タイトルもさることながら、その内容も笑撃・・・いや衝撃的なものであるという。しかし、残念ながら「新・三四郎シリーズ」以外は、どうやら絶版しているらしい。紀伊国屋書店のデータベースにあたってもやはり絶版である。

【さらに追記】

 さらにすごい事実が判明した。城戸礼、実は一部では有名な人であったのだ。その一部の人々とは無国籍映画といわれる日活活劇映画のファンの人々である。日本映画データベースで検索してみたところ、以下の結果が出た。
原作
1956.03.26 げんこつ社員 東映東京
1956.04.11 竜巻三四郎 東映東京
1956.09.05 地下鉄三四郎 東映東京
1956.11.20 浅草三四郎 東映東京
1957.03.13 喧嘩社員 東映東京
1957.03.27 無敵社員 東映東京
1959.11.18 大学の暴れん坊 日活
1960.02.14 拳銃無頼帖 抜き射ちの竜 日活
1960.05.14 拳銃無頼帖 電光石火の男 日活
1960.08.06 拳銃無頼帖 不敵に笑う男 日活
1960.09.14 摩天楼の男 日活
1960.12.03 拳銃無頼帖 明日なき男 日活
1961.10.01 俺は地獄へ行く 日活
1961.12.07 ご機嫌はりきり娘 松竹大船
1961.12.24 ずらり俺たちゃ用心棒 日活
1962.09.02 銃弾の嵐 日活
1964.04.04 抜き射ちの竜 拳銃の歌 日活
そうっ!あのっ「拳銃無頼帖」の原作者だったのである。拳銃無頼帖とは赤木圭一郎が主演し、ヒロインとして浅丘ルリ子、宿命のライバルとして宍戸錠が共演しているあのシリーズである。
「抜き撃ちの竜」「コルトのジョー」ですな。

 そしてこういうB級アクション、私は大好きなんですな。最近は日活から3000円代でセルビデオも出ていることだし、レンタルになくても比較的入手は簡単そうである。いつの日かしっかり観てみよう……。そう心に堅く誓った私であった。

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